『外国語上達法』ユーモアあふれる語学上達の指南書

『外国語上達法』ユーモアあふれる語学上達の指南書

『外国語上達法』は非常に楽しい語学本です。

これから語学を始める人に向けて、語学学習の基本と心構えをユーモアたっぷりに説いてくれる。

著者は1932年生まれの千野栄一先生という言語学の先生(専門はスラブ語学)なんですが、ほんっとうに文章がうまい&面白くて、ご自身のエピソードを交えながら語られるアドバイスの説得力と面白さといったらない。つい引き込まれるし、何度も笑いがこぼれるほど。

そして内容は網羅的かつ要点が押さえられていて、濃い。

驚くべきことに、この本は1986年出版であるにも関わらず現在の私たちにとってもなお重要で有用なエッセンスが詰まっています。昔と比べてツールはいろいろと発達してはいるけど、語学の根本って結局変わらないんだなっていうことを思い知らされますね。

語学学習者は全員一読すべきだと思う。

私はこの本は勉強の気分転換をしたいときに読み返します。面白いからw

面白いし、「よしやるか」という気にさせてくれる。

語学の基本書として、また学習中の気分転換の1冊として、手元に置いておきたい本です。

この記事では、印象に残っている内容を一部紹介します。

語学における才能の差、習得の方法

この本を読んでまず突きつけられる厳然たる事実は「語学には才能が必要だ」ということです。

もちろん、各人に才能の差があることは明らかである。私もこれまで何度、才能の差をみせつけられてきたことであろう。
(中略)
繰り返していうが、才能の差はある。

『外国語上達法』(岩波新書)

語学の才能に関しては、私たちも感覚的にうなずける部分があります。中学校の英語の授業でも、大学の語学の授業でも、語学学校でも、「できる人」と「できない人」はいますよね。こうやってはっきり言うのもなんですが。

ただ何事に関しても才能というのは人によって差があって、努力が必要なことは当然として才能がなければ将棋の棋士にはなれないだろうし、ワールドカップで活躍するサッカー選手にもなれないでしょう。

語学においても同じだということを、まず受け入れないといけない。

ただ千野先生は、才能よりも習得方法が大事だと言っています。

これは実際、励まされる一言。

しかしある言語を習得できるかどうかは、その習得の方法に、より多くのことが依存している。

『外国語上達法』(岩波新書)

外国語の習得には、それを知っていれば、それを知らずに苦労し、揚句の果てに学習が未完に終わる恐れのある学習のコースをずっと楽にするようなコツがある。このコツを知ってそれを実行することが大切で、このコツを知るか知らないかは、その個人の持つ才能の差よりはるかに大きいように思える。

『外国語上達法』(岩波新書)

本書では、万人に通用するであろうこの学習のコツをわかりやすく説明してくれます。特別目新しいことはないけれど、結局これが外国語上達のための正攻法なんだと思う。

正攻法だから誰でもできます。でも難しいのはその実行と継続。これは本当に難しい。

ちなみに千野先生曰く、バイリンガルになるにも才能が必要とのこと。環境さえあれば誰でもバイリンガルになれるのではなく、実は才能が必要らしい。へー。

語学の才能については、適性という言葉で『外国語学習の科学──第二言語習得論とは何か』でも触れられています。

言語習得の仕組みについて興味があれば、こちらの本もおすすめです。

『外国語学習の科学』第二言語習得の仕組みを知って語学学習に活かす

『外国語学習の科学』第二言語習得の仕組みを知って語学学習に活かす

私が『外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か』を最初に読んだのは、スペイン語学習に行き詰まり、何をやっても上達を感じられなくなっていた頃のことでした。何でも良いからとにかく語学上達のためのヒントがほしい、と思って読んだ本です。

なぜ、その外国語を学ぶのか?

語学の目的設定は、学習においてもっとも大事なことだとこの本を読んで改めて気づかされます。

外国語を学ぶとき、なぜその外国語を学ぶのかという明白な意識が絶対に必要だと本書では述べられている。

何語を何の目的で学ぶのか。その外国語を、どの程度習得するつもりなのか。

これが明確であれば、必要な学習内容と学習時間を設定でき、メンタルコントロールも容易になります。

千野先生の主張は以下。

  • 必要とする量だけ学習するというのが、多くの言語を習得するコツの一つ
  • 人間の能力には限界があって寿命も限られてるんだから、必要なだけの英語ができればよく、それで十分

多くの言語を習得しなくちゃいけない人はそう多くはないと思いますが、必要なだけできれば良いという認識は常に持っておきたい。できない自分を必要以上に責めたりネガティブになったりしなくて済みます。

本書に書かれている通り、私は「ただただ外国語ができないことを嘆き、頭の毛をかきむしるだけ」の状態だった時期があります。そうなるとつらいので、何かあったときには「必要なだけできれば良い、必要なだけできれば良い」と念じることが精神安定剤にもなる。

ただ、そうはいっても、誰にとっても常に目的設定が可能かというと個人的にはそうとは限らないと思っていて、仕事や学業・研究で必要な場合は明確な目的設定はしやすいと思うけど、そうではない場合もあると思う。海外で暮らした経験上。

目的設定が難しいというか、目的が、語学学習の目標として落とし込めないほど抽象的なものだったり大きすぎるものになってしまうときだと思うんですが。そういう場合に応じた考え方についても誰かレクチャーしてほしい。

語学上達に必要なのは、お金と時間

本書によると、語学上達に必要なのは二つ。

お金と時間です。

何か国語も習得されている言語学の先生に「お金と時間」とはっきり言われると爽快感を感じますね。

まぁ、そうですよね。特に時間はそうで、単語を覚えるにも動詞の活用や文法を覚えるにもとにかく時間が必要です。いくらお金があったって、覚える時間がなければ語学はできない。

時間を持っているということがとても重要というのはスペイン語の語学学校の先生にも言われたことでした。そして、海外で何もできない専業主婦を余儀なくされていた私は「そうだ、私には時間がある」と気づく。笑

まぁとにかく、語学には絶対的に時間が必要です。

個人的には才能云々や習得のコツとは別に、継続していれば時間が解決してくれるものもあると思っている。特にリスニングとか。時間をかけて聞く量を確保し継続していれば、いつのまにかある程度はできるようになっている。

で、そのお金と時間を使って覚えなければいけないのが語彙と文法

非常にシンプルです。

さらにこの二つを覚えるために必要なものは、いい教科書、いい教師、いい辞書であると本書は続きます。目次は以下の通り。

    『外国語上達法』目次

  1. はじめに 外国語習得にはコツがある
  2. 目的と目標 なぜ学ぶのか、ゴールはどこか
  3. 必要なもの “語学の神様” はこう語った
  4. 語彙 覚えるべき千の単語とは
  5. 文法 “愛される文法” のために
  6. 学習書 よい本の条件はこれだ
  7. 教師 こんな先生に教わりたい
  8. 辞書 自分に合った学習辞典を
  9. 発音 こればかりは始めが肝心
  10. 会話 あやまちは人の常、と覚悟して
  11. レアリア 文化・歴史を知らないと...

2.目的と目標 は必読。

3.必要なもの4.語彙10.会話11.レアリア も有益で重要。

特にレアリア(言語の背景知識)については、語学を始めるときにぜひとも知っておきたい内容です。

私が住んでいたメキシコなんか、警官が不慣れな運転者に難癖をつけては Quiero tomar cerveza(ビールを飲みたい)などと言ってくるんですが、これは賄賂の要求です。(見逃してやるから金払え)

外国語の習得とレアリアは、やっぱり切っても切り離せません。

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